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縊る夢 2

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2007年 2月 2日(金)23時51分37秒
  なんということもなく、時間は過ぎていく。
語らうでもなく、なにをするでもなく。
あなたとの時間が過ぎていく。
勿論恋人ではなく、友達ともいえないような関係。
二人きりで居るのに、関係が何かしら進む訳ではない。
それでいいと思っていた。
それなのに。

あの夢と同じにおいが鼻を擽った。

あの夢と同じ、やや採光の悪い、落ち着いた部屋。
あの夢と同じ格好でゆるゆる振り向くあなた。
あの夢と同じ、酷く遅い空気に支配されて、
そっと、その細い首に手を伸ばす私。

あなたはあの夢と同じように目を閉じて。
わたしはあの夢と同じように力を入れた。

何もかもが、夢と同じに流れていた。

「何故、泣いている?」

あなたが目を開けていた。
こんなシーンは夢にない。
体から力が抜け、私はへたり込んだ。
首を軽く左右に振り、鳴らし、手をやって、
あなたは不思議そうに私の目を見た。
大きくて黒い瞳が私の瞳を覗き込む。
私もおそらくは、同じ表情を浮かべているのだろう。

「夢と…違う」

無理やりに搾り出せたのは、涙声だった。
それに気づいた瞬間、涙がどっと溢れ出す。
嗚咽を漏らす私の肩に、ごつごつした手が触れる。
無骨な手。

「矢張り、お前もそうだったのか」
「え…」
「夢、見たんだろう?今の」

見始めた時期。進んでいく夢。
ずっと共有していた、止められない空気。
そして今共有している、時間。
一緒に居るだけで、この淡い想いまで見透かされているようで、
唐突に頬が染まる。
気づかれないように俯いた。

***

なんかまだ続くよ。長いなぁ。
 
 

縊る夢 1

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2007年 2月 1日(木)00時14分38秒
  毎晩、片思いの相手の『首』を絞める夢を見ている。
二週間前までは、絞める直前だったのに。
今日も縊り殺してしまった。
目覚める都度、手に残る感覚に罪悪感を覚える。
けれど同時に、胸に妙な高揚感がある。
毎晩、あなたの顔を見られるだけで。
夢でも。
絞め殺していても。
もう動かない顔が焼きついていても。
それでも、毎晩あなたに会える不思議な時間。
どうせなら幸せな夢を見たいとは思う。
苛々と、喜びの狭間。

夢の中の私は、ただただ喉に手を伸ばす。
夢の中のあなたは、ただただ私の目を見ている。
あなたの体から力が抜けて、唐突に終わる。
私は手を離した。
それが今朝の夢。
今日はあなたと会える日だ。
本物の、夢でない、あなたと。


ああもうなんで時間が無いときに書きたくなるんだろう。
続きます。
 

縊る夢

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2007年 1月30日(火)23時14分50秒
  毎晩、私は恋をしている相手の首を絞める夢を見ている。

目が覚める度、手に残る感覚に罪悪感を覚える。



…時間がないのでとりあえず投稿ということで。
 

不確定要素(記入時アルコール11%で酔ってますよ)

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年11月17日(金)00時38分23秒
  虹色とはよく言ったものだと思う。
虹の色が一体何色あるかなんて誰にもわからない。
赤橙黄黄緑緑青紫なんて言った所で、
赤は赤だけじゃあない。
橙も橙だけではない。
言葉で定義することの出来ない存在が、
この世にはあるということ。

君は言葉に出来ない心を抱えているね?
それは当たり前のこと。
言葉では説明できないことってあるんだよ。

どんなに裏切られたって、
どんなに悲しい目にあったって、
それでも『大切に思う心』ってのがあれば、
考えてしまうのが人の心というもの。

だから、自分で捉えられないからといって、
混乱することは無いんだよ。

ただそれを許容するだけ。
ただ単に、抱きしめてあげるだけ。

そこに、気持ちの行方や、思いの成就は関係ない。
ただ存在するだけ。

理解するのは難しそうだね?
けれど、そういうものだから。
今のあなたには理解出来ないかもしれないけれど、
いつか理解できること。
そういうことも、世界にはあるから。

よくわからない気持ちでも、抱きしめてあげる。
よくわからないものでも、それは紛れも無い、
『君』なんだよ。

わたしにはわたしさえわからない。
きみにだってきみさえわからない。
でも、そういうものなのだって、赦してみよう。



ほら、少しだけ、楽に生きられそうじゃあない?
 

入水恋噺

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年11月 2日(木)23時54分51秒
  とぷん


やや間の抜けたような音を、はるか頭上に聞いた気がした。
水面に打ち付けてしまった手が少しじんじんし始めた。
助かるつもりは毛頭無く、
ただ単にどうなっているのかを確認する為だけに、
爪先を僅かにばたつかせてみる。
じっとりと水を含んだ着物が体に纏わり付いて、
とてもではないが、浮かび上がりそうに無い。
苦しい中で私は微笑んだつもりになった。

沈んでいく。
深く、深く。
ここは水深でいうとどのくらいなのだろう。
関係の無いことを考えてみたけれど、
どんどん苦しくなってくるこの体と、
どことなく乖離したような頭が不思議で。

意識は少し朦朧としている。
酸素が足りないのだな、と感じた。


私の実際の目は海底を見ている筈なのに、
不思議なことだけれど、飛び降りた崖淵が見えた。
よし、ちゃんと草履を綺麗に揃えてきていたな。
無意識にしても偉いぞ私。

と。
唯一のと言ってもいい、『この世の未練』が姿を見せた。
…かず君。

崖の下 ― つまりは実際の私がいる方向 ― へ向かって、
大きな声を張り上げている、ように見える。
何を言っているかはわからないけれど、
いつもは物静かな彼が、見た事も無いほど大きな口をあけて、
叫んでいるように見える。
目からは大粒の涙。
尽きることを知らないように、次から次へと。
私の居る水の上に、降り注ぐ。
周りの人間達に肩を押さえられていることには、
気づいてさえいないようだった。

崖淵の映像は、それは唐突に消えた。
ほんの少しの後悔が胸をよぎったが、
それ以外は安堵に満たされていた。
冷え切った体のどこかに何故か熱を感じたかと思った瞬間、
私の意識は完全に途切れた。


最早光も届かず、ただただ暗い水の底。
漂う影が、二つ。
どちらも事切れて久しい。
地上に残る草履は、綺麗に揃えられて、こちらも二つ。



捜索隊がその二つを地上に引き上げた後も、
男の両腕は女をかき抱いたまま離れなかったという。
 

さんごのかけら

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年10月16日(月)23時21分22秒
  彼女が海からあがった時、髪に引っかかっていたものがあった。
薄桃色の、さんごのかけら。

俺は本物のさんごを見たことは無かったが、
写真や映像で見て理解していたので、
是非手にとって確かめてみたいと思い、近づいた。

「…なぁに?」

足を砂まみれにさせたまま、彼女が近づいてくる。
何も言わずに手を伸ばし、髪ひとふさと一緒にもちあげた。

驚くほど軽い。
なんとなくにおいを嗅いでみるが、
潮の香しかしなかった。
そしてどことなく、温かかった。

彼女は顔を真っ赤にさせて固まっている。
髪に唇を近づけたように思えたらしい。
宝物を触るように注意してさんごを取った。
つまんで差し出す。

「…自惚れ屋め」

そう言って渡したさんごのかけらは、
彼女が手にとり、その瞳に映した時に一番、

美しく見えた。
 

100のお題 004 携帯電話

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年10月13日(金)22時05分19秒
  004/携帯電話

どうにもならないとわかっていながら、
ただじっと。
じっと見つめていた。
彼と同じ型の携帯電話。
私は紺色で、彼が赤。
どちらもメタル。

ディスプレイには、彼の好きなキャラクタ。
…そろそろ女々しいかも。
もう、何ヶ月経ったかな。
彼は、いつかまた会えるよと言い残して、
私から去った。
3年目だった。

直す気力も出てこなかったから、
登録番号は彼が001番のまま。
あははは…なんて乾いた笑い声。
自分の喉から出ているとは思えないくらい。
でも、涙はもう、出てこなかった。
それくらいには落ち着いたってことなのだろう。

省電力で消えたディスプレイに自分が映る。
ああ、赤く染めた髪を元に戻さなきゃ。
長くした髪も切って。
メイクも変えよう。
携帯電話も。
携帯電話も、変えよう。
ほんの少しだけ、繋がるかもしれない可能性の為に、
メモリだけは残して。
私もあなたから、卒業しなくちゃ。
きっと二人とも幸せになって再会するために。



ぱたんと音を立ててずっと持っていた紺色を閉じ、
私はそれから手を離した。
 

のめない煙草

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年10月 2日(月)23時44分9秒
  ようやくあたしは煙草に火をつけることに思い至った。
日も傾いている。
どれだけの時間こうして座っていたのだろう。

玉砂利が敷き詰めてあるとはいえ、墓の前で女が独り、
ぼんやり座っているというのは余程異様な光景だったようだ。
自分の近くを人間が通っていった記憶が無い。
こんなに長い時間居たというのに。
以前のあたしなら、決してこんなことはしなかっただろう。
人にどう思われるか、それをいつも気にしていたから。

墓石に置きっぱなしにしていた箱から1本煙草を取り出す。
蝋燭の炎に暫くつけるが、火は点かない。
首を傾げて…ああ、そう。
そういえば煙草は吸わなきゃ駄目なのだっけ、と気づく。
煙草を吸わない人間にはわからないことだ。
吸うという表現にしたって、そう。
この人はいつも、煙草をのむって言っていたっけ。

ひとつ思い出せば、ひとつ、ひとつ、思い出す。
連鎖する記憶。
余りにも膨大な。


煙草を吸い込み気味にして、火をともす。
口内に入り込んできた煙を急いで追い出すようにして、息を吐き出し…
― ばたばたと音を立てて砂利の一部が黒く染まった。
雨が降って来た訳ではない。
けれど同じ染まり方。

「っ、どうしてぇ…!!」

この上なく無様な声をさらけ出す。
この人の前では、一度も見せたことの無い姿。
墓の前でくず折れる姿もやはり異様だろうな、などと思いながら、
涙の止め方を知らぬまま、煙草を墓前に供えた。


一瞬。
その一瞬で、煙草は、フィルタ付近まで灰になった。
あたしはそれを見て。
また少し泣いた。
けれど帰りは笑顔になれた。

『吸殻』は持ち帰ることにした。
灰も一緒に。



来年もまた煙草を供える決意をしながら。
 

100のお題 003 不協和音

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年10月 1日(日)00時55分27秒
  003/不協和音

わかっていた。
もうずっと前から、あなたが不協和音を感じていたこと。
僕は最初のうちは、ただの違和感だと思っていた。
気づいた頃には、あなたが既に、不協和音を感じてから、
何ヶ月も経っていた。
取り返す方法もわからない僕は、そのまま。
あなたの言葉を受け入れた。

ずっと、後悔している。
あれからずっと。

わかっている。
あなたにとって、僕がもう殆ど過去であること。
僕にとってあなたが、未だ過去にはならないこと。
過去にしてたまるものか、と思っていること。
悪あがきに近いかもしれないってことさえも。

それでも僕が世界から取り残されていく訳ではなくて、
この1秒1秒で、ちゃんと年をとっていく。
それが、辛い。
辛く感じるのがつまり、あなたが僕の中で過去ではないという証拠。
…だと、思いたい僕が、居る。


目に映る全ては幻想なのだという。
つまり、目に見える全ては自分の主観というフィルタに通されており、
信用出来ない、らしい。
わかる気がする。
それでもいいと思えるから、それでいい。
誰も、あなたさえもそれを認めなくたっていい。
僕が僕を認める。

僕にとっては、今の状況が不協和音だ。
いや、違うかもしれない。
不協和音だって、和音になるだけマシなのだ。
僕には、どんな音だっていいから、和音が欲しい。
単音は、寂しい。
エゴの塊をぶつけてしまうなら、
「たとえあなたが不協和音を感じるとしても、それでもいい」

和音であることで、目を瞑って欲しい。
僕と一緒にいて欲しい。
たとえ二度とかなわない願いだとしても、
僕にはそれを呟く、願い続ける義務がある。
誰に対して?
勿論、今の僕に対して。

ねぇ。
また僕はあなたに会うよ。
絶対に。
そして、言うんだ。
言葉が噛みあわなくたって。
綺麗な音が鳴らなくたって。

もう一度君と、何らかの音を奏でたい。
それが、今の僕の目標。



穏やかな音が鳴ってくれればいいなと、想う。
 

100のお題 002 夜が明けたら

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年 9月29日(金)23時21分7秒
  002/夜が明けたら

もうすぐ、深夜3時。
それに気づき、舌打ちする。
銜えたまま火さえつけない煙草の端を噛んだ。
少し苦い。
目の前の小さなテーブルには、灰皿さえ出していない。
我ながら、吸う気の全く無い、ポーズとしての煙草だ。

壁に背中を預けて暫く虚ろなまま微動だにしなかった。
ふと、ぼんやりした目つきのまま、外を眺める。
闇の中、街灯がぼうっと浮かぶ様に点滅している。
あの点滅、いつからだったかな。
あの電球を換えるのは、誰の仕事なのだろうか。
いつも、いつの間にか消え、いつの間にか点くようになっている。
不思議だ。
自分の知らない所でも、世界がちゃんと動いている証拠だろう。

関係の無いことを考えるのは、いい事だ。
自嘲気味な自分に気づく。
また、自分でポーズだとわかっていながら煙草を噛む。
考え続けるのは、地獄にいるのに等しい気がしていた。

手探りで、使い慣れた小さなリモートコントロールを探す。
電源のボタンを押すと、使い古しのコンポの一部が明滅した。
やがて、流れたのは「夜よあけないで」
男性二人組の、比較的最近の曲…だった筈だ。
どちらかといえば、早く明けてほしいなと思った。

ふいに、実家に時折送っていた手紙を書く為の、
封筒と便箋に思い至った。
わざわざ立って歩くのは面倒だったが、
どうせ時々煙草を噛むくらいしかする事が無いと諦めをつけた。
テーブルの中に両足を投げ出していた状態から這い出し、立ち上がる。
体が重い。

真っ暗闇に閉ざされた、箱の中は、さながら海の底。
便箋を一枚取り出し、封筒を手にとり、
ペンを探そうとして初めて困って、
ベッドサイドのスタンドに明かりを点す。
生活感のまるで無い部屋に苦笑する。
笑って口の端から落ちた煙草を屈んで拾い、
銜えなおしてさっきの場所に座りなおした。

「何を書くかなぁ…」

夜中は声がよく響く。
一番上の階で赤ん坊が泣きだした。
手元の便箋に目をやる。
暫く考えて、ペンのキャップを取り、
二言三言、書いた。
文章のチェックを一度して、封筒に入れ、舐めて封をした。
スタンドの明かりを消す。
真っ暗闇にはならなかった。
夜が明け始めている。

夜がすっかり明けたら、切手を買いに行こう。
夜がすっかり明けたら、それを貼って投函しよう。
夜が明けたら。
また思い出すだろう。
また考えてしまうだろう。
それは、仕方の無いことだ。
だから何度でも考えよう。

すっかり端がふやけた煙草をつまんで眺める。
ごみ箱に投げると、回転しながら吸い込まれていき、
見えなくなった。

夜が明けたら。
…煙草を、初めて自分で買ってみよう。
そんなところから始めてみよう。

空がすっかり薄紫に染まっていた。
あまりの神々しさに、目を細める。
考えても考えなくても、夜は明けるから。
だから考えよう。
せめて、考えることは放棄しないでいよう。
それが自分を保つ、唯一のことのように思えるから。

「それくらい、いいよな」

呟いた言葉に帰ってきたのは小鳥の囀りだけだったけれど、
充分に満たされた気持ちになれたから。
すっかり明けるまでそのままでいた。


封筒を手に取る。
サンダルをつっかける。
ドアノブを何気なく捻る。
光の洪水に一度目を細めて。
そして、何事も無かったかのように、歩き出す。



何かを始める日ってのは、そういうものだ、なんて思いながら。
 

100のお題 001 全ての始まり

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年 9月29日(金)12時08分0秒
  001/全ての始まり

鈴の音だった。
ドアの外で、ちりりという音がした。
それは微かな音だったのだけれど、
私には、わかった。

ベッドでまどろんでいた体は、
脳が覚醒するのを待たずに跳ね起き、ドアへと向かう。

苦しくて呼吸が出来ない。
胸の鼓動が、こんなにも響くのは、
あの日以来―。

あの日。
あなたが私から去った日。
小さな鈴のついたキーホルダーを、
私に返そうと差し出して、
私はそれを拒み、押し返して手のひらに握らせた。
あの日。
あなたがここから去って、私はそれを見送って。
私にとっての全てが終わった。

いつもあなたは部屋に入る前、
必ずといっていい程、鍵を探していた。
大き目の鞄に入れてごそごそやっているその姿が、
私には愛おしかった。

今ではかけるものだという事さえ忘れてしまったように、
ぶら下がりっぱなしのドアチェーン。
それが音を立てる程勢いよく扉を開けた。
呼吸が、荒い。
汗まみれの姿は、無様だろう。
こんな夜更けに。
来る筈もない。
わかっている。
わかっていた。
けれど、願っていた。
ずっと、ずっと。
あの日から。
あなたの姿だけ、願い続けていた。
それを今、痛いほどに、知った。

鈴の音は幻聴だったのだろう。
私の望みが、まどろみの中で実現した、音。
そう納得して、ゆっくりと扉を閉めて気づいた。
確かに、音がした。
…ドアと一体になっている郵便受けの中。
小さな包みが入っている。
何故か震える手で、それを手に取った。
指先で、くぐもった鈴の音がする。
包んである紙を、丁寧に、開いた。
中には一文。

「ごめんなさい、今までありがとう。ばいばい」

文字が一瞬で滲んだ。
ぼたりと左手に落ちたもので初めて、涙に気づいた。
気づいてから、声を上げた。
立っていられないから、扉に背を預けて、
しゃがみ込んで泣いた。
自分が情けなくて、どうしたらよかったか悔やんで。
何が出来たか考えて、どうしたらいいのか悩んで。
右手の中でまた小さく、鈴が鳴ったけれど、
今の私には聞こえなかった。

暫くしゃくりあげていたけれど、それももう落ち着いて、
今はぼんやりと鈴を振っていた。
ちりちり不規則に繰り返す音を聞いているうち、思った。

確かに全て終わったのかもしれない。
そして、全ては始まりなおしたんだろう…。


涙を拭った。
目蓋が腫れているようだけれど自業自得だから仕方がない。
「よっ、と」なんて言いながら立ち上がる。
首の骨を鳴らして部屋を眺める。
また、ここから始めよう。
始めは辛いかも知れないけれど…少しずつ。

あなたに今度会えるなら、笑顔で会えなければ意味がない。
あなたを笑わせられるくらいじゃなきゃ、意味がない。



ほら。
部屋に差し込む夜明けの光が、全ての始まりを告げている。
 

世界の色彩

 投稿者:ヨシノ  投稿日:2006年 9月27日(水)00時18分49秒
  「君は、生まれて初めて塩基配列を見た時、体が震えなかった?
世界で最初に直線を、真にまっすぐと言える直線を引いた、
その人の気持ちを考えたことはある?
ゆるやかで、且つ力強く空に描かれる、鳶の弧を見る時、何を感じるかい?」

息を吸い込んでも吐き出してもいないように感じられる、
特徴的な、いつもの彼の喋り方。
私が何か答えるよりも先に、次から次へと問いを紡いでゆく。
彼の、作り物めいた瞳が、虚空を見つめたまま、きらりと輝いた。

全ての問いが発せられて、私は、
一つ一つに対して答えを出した訳ではないけれど、
彼の全ての問いが同じ事を指していると感じたので、
ひとつだけ、答えた。

「それらの問いを生み出せる、あなたの瞳もそれらと同じ、」

私には、彼のようにすらすらと喋る事が出来なくて、一度言葉を切る。
すう、という吸気の生み出す音が、おそらく彼に聞こえただろう後、続けた。

「―美しい、と私は思う」

微塵も翳らぬ瞳で、しかしやや儚げに彼は呟く。

「けれど、僕の目は、見えない。もうずっと、何年も」

私は、出来るだけやさしく手を重ね、そっと握った。
彼の瞳がほんの一時、揺れる。
その不思議な虹彩。

毅然としているようでいて、覚束無い足取り。
空気を泳ぐような、彼の生き方。
それらを見事に映し出している、美しい色あいだ。

物を映さぬ瞳を見つめながら、私は伝えた。

「貴女は、自分が焦がれてやまないものを、その身に宿しているのよ」

少なくとも私にとっては何よりも美しい、などとは決して続けない。
明らかな蛇足だからだ。


やがて、静寂に包まれた部屋で。
ひっそりと、その瞳から流れ落ちた涙も、また。
何よりも。



この世界に存在する、何よりも。
 

他人丼(完全版)

 投稿者:芳埜  投稿日:2006年 9月10日(日)23時40分31秒
  「和花ー、他人丼出来たぞー」

お父さんの呼び方が何だか面白かったので、私は笑いながら階段を駆け降りた。
熱そうに丼を運ぶお父さんの後ろで、片付けの終わったお母さんがエプロンで手を拭っている。
いつもの光景だ。

「お父さんったら、他人丼ってなにー?」
「豚と鶏卵」
「けい…?」
「豚さんとにわとりさん」
「さんまでつけなくっていいよ」

お母さんが最後の丼を盆に乗せて持ってきた。
いただきますの号令がかかり、復唱して箸に手を伸ばした時、
何でもない事のように、お母さんが口にした。

「そうそう…」

和花は視線だけ上げて、丼の中身を持ち上げつつ口をあけた。
お母さんはにっこり笑ってお父さんの左腕に右腕を絡めつつ…

「あのね、お母さんとお父さんって、結婚してないのよ」

折角持ち上げたご飯が丼の中に落ちていた。
和花の思考はショートしている。
それなのにお父さんまでお母さんの言葉に続けて話し始めた。

「そうそう。実はなー、お父さんとお母さんは良く考えると他人なんだよな」
「なんだよな、じゃないよー!何?いきなり何の話?!」

お父さんとお母さんは腕を絡めあったまま視線を合わせ、そして同時に和花の方を向く。

「「実はお父さんとお母さん、結婚してませんでしたー☆…って話」」
「ハモんな馬鹿親ーッ!…え、離婚じゃなくって?」
「そうよ、そもそも結婚していないどころか籍も入れてないの」
「和花の出生届はちゃんと出したのにな」
「そうねぇ私って実はシングルマザー?」

勝手なことを言う両親の言葉はもう頭に入っていなかった。
どういうこと?
どういうこと?
どういうことー??
お父さんとお母さんは結婚してなくて、籍も入ってなくて、
えっと、それで、私はお母さんの子供で…えぇ?

「もしかしてわたしのお父さんってお父さんじゃないの?」
「お父さんさ」

意味が分からない。
私の両親は両親なのにどうして二人とも結婚していないんだろう。

「あ、和花、そういうわけだから、今更だけどどっちの苗字使ってもいいわよ」
「相沢と輪島…輪島を選ぶとイニシャルはWWだな、すごいな和花」
「すごくないッ!ていうかうちの学校苗字で出席番号変わるのに今更どうしろと!」

しかも「あ」と「わ」って。
…。
…?
そういう問題じゃなくないか?

「で…えっと、結局どうすればいいの、私…」

二人はまた顔を見合わせて、デジャヴな感じの笑顔で言った。

「「今まで通りでいいと思うけど?」」
「…じゃあなんで今そんな大事なことを…」
「そういえば言ってなかったなぁと思ってね」
「うんうん。戸籍がほしいだのって時に知ったらびっくりじゃない」
「……どうして籍入れないの?」

その問いには、二人とも、曖昧な、しかし確実な笑顔で答えた。

「他人同士だとしても、家族としてあることに問題はないと思うし」
「あの頃、色々あって、籍を入れるタイミングを逃し続けちゃって…」
「だから、この際籍入れなくても立派な家族を作ろうって、言ったんだよ」

和花は、まだ暫く下を向いて考え事をしていたけれど、
突然きりっとした瞳で、箸を丼に差し入れ、一口食べた。

「わはった」

口にものを詰め込んだままで、了承した意を告げた。
飲み込んで、もう一度お父さんとお母さんを見る。

「冷めないうちに食べることにしたから食べよう、他人丼」
「うん」
「好き合ってるみたいだから問題ないし」
「そりゃあね」
「何か問題発見したらその時対応すればいいんだもんね」
「うん。和花は賢いなぁ」
「ほめなくていい」

そして、今までの人生で一番混乱した和花は、
しみじみと、正直な想いを込めた感想を、口にした。
少し飄々とした表情で。



「他人丼もこんなにおいしいんだし、ね」
 

他人丼(続きは帰宅後)

 投稿者:芳埜  投稿日:2006年 9月10日(日)15時57分32秒
  「和花ー、他人丼が出来たぞー」

お父さんの呼び方が何だか面白かったので、私は笑いながら階段を駆け降りた。
熱そうに丼を運ぶお父さんの後ろで、片付けの終わったお母さんがエプロンで手を拭っている。
いつもの光景だ。

「お父さんったら、他人丼ってなにー?」
「豚と鶏卵」
「けい…?」
「豚さんとにわとりさん」
「さんまでつけなくっていいよ」

お母さんが最後の丼を盆に乗せて持ってきた。
いただきますの号令がかかり、復唱して箸に手を伸ばした時、
何でもない事のように、お母さんが口にした。

「そうそう…」
 

白い手袋

 投稿者:芳埜  投稿日:2006年 9月 7日(木)23時38分26秒
  僕の左手をきゅっと握っている。
その手には鮮やかなほど白い、手袋。
微かに震えていることに気づき、その腕ごと抱きしめたくなって、
あわててその衝動を押さえ込む。
今はまだ、駄目だから。

盗み見るように上げた視線は、同時に上がってきたそれにかち合う。
絡まる視線。
そんな、なんでもないようなことで僕らは、安堵した。
自然、頬が弛んでくる。
妙な言い方だが、互い、目に生気が宿った感覚。

僕も微かに震える両手で、ゆっくりと、ゆっくりと、
霞むように白いヴェールを、君の顔から剥いで行く。
一瞬伏せられた睫毛が再び上がってきた。
化粧をしているのにはっきりとわかる、上気した頬に。
また抱きしめたくなって僕はその気持ちを抑えるのに必死だ。
早く、早く抱きしめたいから、だから早く、言ってしまってくれよ、と。
動悸が激しくなっていく。
どくん、どくんと。
会場が震えているかのようだ。

「誓いの、キスを」

言葉が合図になるのは昔から当たり前のことだけれど、
今この時ほどそれを意識したことはなかったかもしれない。

…僕は、焦る故にこの上なく慎重に、ゆっくりと、彼女の顔を覗き込むように。
ああ、少し開いた唇が…赤く艶めいている。
赤く。
赤い。


全ての儀式を恙無く終えて。
そして僕は、ようやく、彼女を存分に抱きしめた。



薔薇の花びらが舞う、晴天の下で。
 

 投稿者:芳埜  投稿日:2006年 8月17日(木)00時28分17秒
  図書館で手に取ったその本は、やや重厚な装丁だった。
そこが気に入って、中も見ずに借りてきた。
深いワイン色に金の文字で、「吸い込まれる光の運命」と書いてある。
ワインの表紙に大きく、中央へ向かう白っぽい渦巻きが描かれていて、
それがいかにも吸い込まれるような雰囲気だ。

ただいまの挨拶もそこそこに、少女は部屋へと駆け込んだ。
しっとりと吸い付くような本の重さを楽しむ。
表紙を開くと、著者の紹介や本の説明がある訳ではなかった。
そこもワインレッド。
それがまた、少し気に入った。
内容が知りたくて、はやる気持ちのままに、次の薄紙を捲ったその時――

ひゅるん

コミカルな音がしたかと思えば、少女の部屋からは主の姿が消えていた。
ベッドの上にどさりと収まった本の表紙、その白で描かれた渦巻きの中を、
光が駆け抜け、中央へと進み、やがて、吸い込まれて消えた。
夕飯のにおいが立ち込めても、少女が部屋に戻ることはなかった。


気づけば図書館にいた。
けれど、なぜか動けない。
少女は願った。
誰か、誰か私に気づいて。
誰か、誰か私に気づいて。

彼女の願いは、ほんの数日後に叶うだろう。



声に気づいた青年が、その本を手に取り、開いた後に。
 

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